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鳥取地方裁判所 昭和60年(行ウ)2号 判決 1988年6月23日

原告 藤谷多嘉子 外二名

被告 鳥取県

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五八年四月一五日付で米子境港都市計画事業米子駅前通り土地区画整理事業の施行者として原告ら外一名が所有する鳥取県米子市日野町一三番宅地に対してした換地処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五八年四月一五日、米子境港都市計画事業米子駅前通り土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行者として、原告ら外一名が所有する鳥取県米子市日野町一三番地宅地一六五・三〇平方メートル(但し、登記簿上の面積は一五八・一八平方メートル。以下「本件従前地」という。)を従前の宅地としてこれに対する換地を同町一五八番地宅地一六九・八八平方メートル(以下「本件換地」という。)とする内容の換地処分(以下「本件換地処分」という。)をし、そのころ原告ら外一名に対しこの旨通知した。

2  しかしながら、本件換地処分には次のとおり本件従前地の確定手続に重大な瑕疵があるから、取り消されるべきものである。

即ち、本件事業の施行に関する鳥取県条例(昭和四五年三月二七日条例第一〇号、以下「本件条例」という。)は、従前の宅地の地積である基準地積については原則として当該宅地及び隣接する宅地の各所有者が確認した境界に基づき施行者が実測した地積とすると定めているところ、本件の場合施行者である被告は、原告らに境界の立会を求めこれに基づく境界の確認をすることなく一方当事者である相手方の意見に基づき境界を確定したものであつて、これが右条例に反することは明らかである。

なお、原告らは、本件訴訟において以上の手続法規違背を主張するものであつて、照応の原則違反という換地処分の内容の違法性を主張するものではない。

よつて、原告らは被告に対し、本件換地処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち原告ら主張の内容の条例が存在することは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

三  抗弁(手続の適法性について)

1  昭和四七年五月ころ、原告藤谷多嘉子(以下「原告多嘉子」という。)が隣地所有者立林寅太郎とともに本件従前地の境界確認に立会つており、しかもこれは他の共有者らを代表して立会つたものである。そして、右立会の際同原告が確認した境界に基づき、本件従前地の地積が確定され、これにより本件換地処分がなされた。

2  仮にそうでないとしても、原告らが再測の申立てをした直後である昭和四七年七月ころ、原告多嘉子が他の共有者らを代表して右1で確認した境界による基準地積に異議がないことを表明し、もつて事後承諾したものである。

以上のとおりであつて、本件換地処分における従前地の境界の確認手続に何ら違法な点はない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて否認する。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、いずれも成立に争いのない甲第一ないし第三号証、乙第二〇号証、いずれも原本の存在及び成立とも争いのない乙第一号証の一、二、第二ないし第四号証、第五号証の一、二、第八(但し、後記採用しない部分を除く。)ないし第一〇号証、第一二号証、証人林安雄、同立林寅太郎(但し、いずれも後記採用しない部分を除く。)、同朝田康敬、同田崎碩の各証言、原告藤谷多嘉子、同藤谷嘉子(第一・二回)、同井上礼子の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、前掲乙第八号証、林安雄、立林寅太郎の各証言中右認定に反する部分は採用しない。

1(一)  本件事業の経過の概略は次のとおりである。

昭和四五年七月七日事業計画の決定の告示

同五七年五月二七日ころ仮換地指定処分

同五八年三月二日から同月一五日まで換地計画の縦覧

同年四月一五日換地処分

同月三〇日換地処分の公告

(二)  被告代表者知事は、原告ら及び杉山紀佐子が所有する本件従前地鳥取県米子市日野町一三番地(宅地一六五・三〇平方メートル)に対し、同町一五八番地(宅地一六九・八八平方メートル)を換地とする本件換地処分(いわゆる現地換地)をし、その際本件従前地の南側に存した元水路部分が増換地となり、原告ら及び右杉山は、精算金として一九七万四七五〇円を徴収された。

2(一)  本件換地処分に先立ち、被告は、昭和四七年五月ころ、従前地の地積(基準地積)確定のため、境界を確認する必要上、原告多嘉子及び西側隣地同町一四番地所有者立林寅太郎に通知し立会を求め、そのころ、当時の県職員林安雄らが右境界確認のため現地に赴き、原告多嘉子及び右立林がこれに立会したものの、右立林が原告ら所有の倉庫の土台石の南端線を両地の境界と主張し両人の主張する境界線が一致しなかつたので、原告多嘉子は立会を中止しそのまま自宅に引きこもつたが、右林安雄らが右立林の主張に添つて右土台石に青ペンキで印をつけ、境界の確認がされその後これに基づき測量が実施された。

なお、右立会に際しては被告から原告多嘉子以外の他の共有者に対する通知はされなかつたし、これらの者から原告多嘉子に立会を代表してもらうなど、右境界確認につき同人に委任した形跡もない。

(二)  昭和四七年七月ころ、被告から往復葉書で右(一)の測量に基づく基準地積の通知がされたのに対し、これに不満な原告多嘉子は、右返信葉書に承服し難いので再測してもらいたい旨記載して被告宛に返送したので、被告は、今一度前同様の通知をしたが、この時は返信葉書の返送がなかつたことから、同原告が前記基準地積を了解したものと理解し再測を実施することはしなかつた(なお、証人林安雄は、原告多嘉子が右再測申請は本件事業に反対する団体に加入していた関係上形式的にしたものであるから、右申請は撤回したことにしておいて欲しい旨述べたと供述するが、この供述は原告多嘉子の供述に照らしにわかに採用し難い。)。

(三)  昭和五一年ころ前記立林寅太郎が従前の建物を取り壊し新たに原告ら所有の本件従前地との境付近にまで二階建の建物を建築しようとしたので、原告ら及び前記杉山紀佐子は右建物の建築禁止仮処分の申請をしたが、右申請は却下され、更に右決定に対する抗告も棄却された。

(四)  原告らは、前記(二)の再測請求のころから被告に再度境界の確認を申し入れ、殊に昭和五五年ころからは再三にわたり被告に善処を求め交渉を続けていたが、換地計画が縦覧された昭和五八年三月ころ更に右換地計画に意見書も提出したものの採択されなかつた。

このころ、立林寅太郎が前記境界線に基づきブロツク塀の設置を始めたので、原告らは、これに抗議し延期するよう求めたが、右工事は続行され完成した。

(五)  昭和五八年六月一五日、原告らは、本件換地処分に対し、前記のとおり境界確認がなかつたことなどを理由として建設大臣に行政不服審査法による審査請求したところ、右請求を棄却する旨の裁決がなされた。

二  そこで、以上の認定事実に基づき本件換地処分の手続の適法性について判断する。

1  被告が本件従前地の境界確認に際し、原告多嘉子に通知して立会の機会を与えたものの、同原告の確認を得ることなく、しかもその他の共有者についてはそもそも通知をせず立会の機会を全く与えることなく従前地の境界を確定したものであることは前記のとおりであり、また原告らが事後承諾した旨の抗弁2の事実を認めるに足りる証拠もない。被告らは、原告多嘉子については立会のみならず同女の確認をも得た旨主張し、これに沿う乙第六、第七号証、前掲乙第八号証、証人林安雄、同立林寅太郎の各証言もあるが、前記認定の再測請求、仮処分申請、審査請求などの経過に照らせばにわかに採用し難いというべきである。

そうすると、被告は、従前地の境界確認手続を原告らの確認を得ないまま済ませたものというべきであり、これが基準地積については原則として隣地所有者の確認した境界に基づくことを要する旨定めた本件条例(この点は当事者間に争いがない。)の趣旨に反するものであることは明らかで、このような見地からすれば右手続には違法な点があるというべきであろう。

2  しかしながら、土地区画整理法はこの点について明文をもつて規定することなく従前地の確定は施行者の合理的な裁量に委ねているものと解されるうえ、前掲認定の本件換地処分における諸事実に照らしこのような立会及び境界の確認が換地処分自体の成立要件又は効力発生要件であるとも解されないから、右手続の瑕疵が換地処分の違法を来たすものではないと考えられる。

したがつて、境界確認の機会を与えられなかつた結果地積の確定を誤るなど照応の原則(土地区画整理法八九条)に違反する点を問題にするならば格別、前記手続違背が換地処分の取消事由に当るとする原告らの主張は失当であるといわなければならない。

そうして、本件の場合現地換地であるにもかかわらず原告らの建物の一部が本件換地処分により確定した隣地との境界線を超えている疑いがあり、右は本件換地処分によつて従前の境界線が移動したため生じた可能性もあるので、このような観点から照応の原則違反を問題にする余地はあると考えられるところではあるが、原告らはあくまでも手続法規違背を主張し照応の原則違背という換地処分の内容の違法性を主張するものではないから、結局原告らの請求は理由がないことに帰する。

三  以上によれば、原告らの請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 平田勝美 能勢顯男 金光健二)

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